ホイールナットは締めすぎのほうが圧倒的に多い
— 増し締めとトルクレンチの扱い
ホイールナットで心配されるのは、たいてい「緩まないか」のほうです。ところが現場で実際に多いのはその逆、締めすぎです。
「強く締めておけば安全」という感覚は、ホイールナットに関しては正しくありません。規定値には上限としての意味もあります。
現場で多いのは、圧倒的にオーバートルク
アンダートルクとオーバートルクなら、オーバートルクが圧倒的に多いというのが実感です。
分かるのは緩めるときです。インパクトレンチを当てたときの打撃数が明らかに多いナットがあります。十字レンチだけで体重をかけて締めたか、インパクトで全力のまま締めたか。そういう締め方をされた車が一定数入ってきます。
ひとつ正直に書いておくと、「インパクトだけで締めたかどうか」を後から判断することはできません。できるのは、緩めたときの手応えで「これは締めすぎだ」と分かることだけです。
締めすぎると、ハブボルトが伸びて折れます
高いトルクで締め付けられた結果、ハブボルトの伸びや折損が稀に見られます。ボルトは締め付けで少し伸びることを前提に設計されていますが、限度を超えれば戻らなくなり、最終的には折れます。
一部の自動車メーカーではハブボルトが弱めで、折れが頻発します。当店では該当するボルトを在庫しているほどです。締めすぎは、それくらい日常的に起きています。
折れたボルトの交換は、ホイールを外すだけでは終わりません。締めすぎは「その場は無害に見えて、後から高くつく」典型です。
増し締めは、いつやればいいのか
これもよく聞かれます。当店の案内はこうです。
- 新品のホイールとナットを使った場合 … 500kmくらいで増し締め、またはトルクレンチを当て直すことをお勧めしています。初期の伸びを考慮してのことです
- 古い車で、ナットを長い期間替えた形跡がない場合 … 増し締め、あるいはナットの新品交換をお勧めしています
逆に言えば、それ以外で神経質になる必要はありません。規定のトルクで締めたナットが、簡単に緩むようなことは無いというのが体感です。「走るたびに増し締めしないと不安」という状態は、そもそも締め方か部品のどちらかに問題があります。
トルクレンチを持っている方へ
ご自分で交換される方が増えているので、工具の扱いについても書いておきます。トルクレンチは精密機械です。
使ったら設定を緩める
プリセット型のトルクレンチは、一度使ったら設定を緩めておいてください。中にバネが入っていて、設定したまま保管するとヘタリの原因になります。取扱説明書にも書かれているはずです。
ぶつけない、落とさない
地面に強く当てたり、工具箱に放り込んだりといった乱暴な扱いはタブーです。見た目が壊れていなくても、精度は狂います。狂ったトルクレンチは、使っていないより危険です。「トルクレンチで締めたから大丈夫」と思い込んでしまうぶん、たちが悪いとも言えます。
校正は1年に1回
使用頻度にもよりますが、校正は1年に1回は取るべきです。個人の方であれば、数年に1度は設定トルクが適切にかかっているかを確認してください。
簡易的な確認方法
新品のトルクレンチ、または校正済みのトルクレンチと2本を用意し、お互いを同じトルクに設定した状態で、同時に「カチッ」と鳴るかを確認する方法があります。ずれていれば、どちらかが狂っています。単純な方法ですが、何もしないよりずっとましです。
規定値は「車種名」で決まりません
最後に、調べ方の話です。
国産車の場合、メーカー単位でトルクがある程度決まっていることが多いので、少し調べれば分かることが多いです。ネットにも情報はたくさん出ています。
ただし注意点があります。
- 年式や型式によって、同じ車種でも規定トルクが異なる場合があります。表示されているトルクがどの型式の車両を対象にしたものかまで確認してください。車種名だけで断定しないことです
- 輸入車は、同じ車種・同じ年式でも、グレードが違うだけで規定値が異なることが多いです。国産車の感覚で調べると外します
結論として、必ず取扱説明書か、信頼性の高い情報源を参照してから締めてください。
CALDRIVE の TorqueSpec 車種別ページでは、国産の人気車種について型式を明記したうえで、締め付けトルク・ナットのネジサイズ・二面幅・座面形状・PCD・穴数をまとめています。数値の出典と確認日もページ下部に明記してあります。ご自分の車の型式と突き合わせて使ってください。
なお、ナットの座面が車種ごとに違うという話は 持ち込みホイールが付かないとき に書きました。座面が合っていなければ、正しいトルクで締めても意味がありません。順番としては、まず座面、それからトルクです。
まとめ
- 現場で多いのはアンダートルクよりオーバートルク。「強く締めれば安全」は誤り
- 締めすぎはハブボルトの伸び・折損につながる。折れが頻発するメーカーもある
- インパクトだけで締めたかは後から判断できない。分かるのは緩めたときの手応えだけ
- 増し締めは新品なら500kmくらいが目安(初期の伸びを考慮)
- 長期間替えていない古いナットは、増し締めか新品交換を
- 規定トルクで締めたナットが簡単に緩むことは無い。過度に不安がる必要はない
- プリセット型トルクレンチは使用後に設定を緩める(バネのヘタリ防止)
- 校正は年1回。個人でも数年に1度は確認。2本を同じ設定にして同時に鳴るかで簡易点検できる
- 規定値は車種名だけで断定しない。型式まで確認する。輸入車はグレードでも変わる
ホイールの取り付けは、走行中の脱輪など重大な事故に直結します。本記事は実際の作業経験にもとづく一般的な考え方であり、個別の車両の規定値・作業手順を示すものではありません。増し締めの距離や交換の要否も、車種・部品・使用条件によって変わります。締め付けトルクの規定値は必ずお乗りの車両の取扱説明書またはメーカー公式情報で確認し、判断に迷う場合は整備工場にご依頼ください。CALDRIVE 掲載の数値は出典と確認日を明記した参考値です。